インタビュー記事

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第16回 貝畑政徳 氏

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今回は、面白法人カヤックのCTOを努める貝畑政徳さんにお話をお聞きしました。貝畑さんは、面白法人カヤックと関連会社の株式会社クーピーの技術のリーダーを兼任されており、開発責任者として、カヤックの展開する数々のサービスの技術面を担当しています。今回は冬晴れの鎌倉にお邪魔し、カヤックの話題になっているオフィスと「どんぶりカフェダイニング」の「BOWLS」でお話しをお聞きしました。

※取材日は、2007年12月です。所属や役職などは当時のまま掲載しております。

<PCとの出会いは>
川井 貝畑さん、こんにちは。本日は「Webエンジニアの武勇伝」ということでお願いいたします。
貝畑 こちらこそ。よろしくお願いいたします。
川井 まずはお決まりなんですが、PCとの出会いからお聞きしたいんですが。
貝畑 パソコンに本当に触れたのは中学2年生のときで、たまたま友達の家にパソコンがあって、「これはなんだ?」という感じでした。子供だったんでファミコン世代ですし、ゲームをやっていて、ゲームを作りたいという欲求がその頃からあったんですが、パソコンだったら簡単ゲームなら作れるよっていうのを友達の家で実演してもらって、これはすごい!って衝撃を受けました。自分でやりたいゲームは自分で作った方が面白いって思って、その頃からパソコンに興味を持ち始めたんです。
川井 なるほど。
貝畑 ただ、一般のオタク系というかハッカーみたいなところまではいかなくて、趣味程度に遊んでいた感じですね。なので本格的に使い始めたのはやっぱり大学に入ってからです。SFC(慶應藤沢キャンパス)に入って、1人1台、パソコンを持たされたことがきっかけで、あらゆる情報をパソコンで整理するようになって、そこから本格的に開発なんかも始めました。ですので、スーパーハッカーなんていわれている人に比べるとスタートは遅いと思います。
川井 でも好きだったり、素養みたいなものはあったんでしょうね。
貝畑 はい。理系だったとは思います。
川井 学生時代は授業以外ではパソコンは触っていたんですか?
貝畑 Webの開発の仕事もしていましたね。普通の同学年の人よりはWebに触れるのが早い環境でしたので、いち早くHTMLだとか、Webのサービスやプログラムを身につけて、Web開発会社と同じくらいのスキルはあったので、個人で普通に仕事を請けてこなしていたという感じでした。それもあって、同級生3人で会社を始めるときも、インターネット系のサービスにしたという経緯もあります。
川井 3人がお知り合いになられたのは、大学の学部が一緒だったからという感じですか?
貝畑 柳澤は高校の頃から同じです。ものすごく仲がいいという訳ではなくて、麻雀友達だったんですが、麻雀しているときに「こいつは只者じゃないな」っていうのを感じていて、その頃から、将来一緒に何かしようよって言っていました。起業とかいう風には決めていなかったですが、何か一緒にしようという口約束はしていましたね。柳澤と同じ大学に進んで、そこで久場に出会いました。久場はパソコンができるとか何ができるとかじゃなかったんですが、とても人間的魅力を感じて仲間に引き込んだ感じです。
川井 そうなんですか。柳澤さんとは、高校の同級生でしたか。卒業後はそれぞれどうされていたんですか?
貝畑 3人ばらばらでした。僕は大学院に進学して、柳澤はソニーミュージックエンターテイメント、そして久場はアメリカに放浪しに行ったんです。絨毯を売ってたみたいなんですけどね(笑)
川井 アメリカで絨毯ですか(笑)
貝畑 なんとなくですが、5年くらい経ったら、会社を作ろうみたいな話を大学時代にしていたんですが、実際には僕が2年で大学院を卒業して、インターネットも隆盛していたので、もう何か始めた方がいいって思って、柳澤にはソニーを辞めてもらって、久場をアメリカから呼び戻して、起業したという経緯なんです。
川井 早いですね。
貝畑 そうですね。当時まだWeb制作会社もあまりなかったので、早い方だったと思います。久場はアメリカから帰ってきた当時は携帯電話すら知らなかったんですよ。
川井 何年くらいになられるんですか?
貝畑 9年ですね。2008年には、10年周年になるので、イベントをやろうと思っています。
川井 最初は受託からですか?
貝畑 若い頃って大きなことも考えるし夢があるじゃないですか。インターネットって個人でいろいろな情報を発信できるから魅力的だったし、ネットで何かしようということだけは決まっていたんですよ。でも最初はコネもないし、仕事もないし、お金もないじゃないですか。なので受託をしてみようってことで、得意先の代理店をつくって始めたんです。そのときは月給5万円くらいで、部屋も借りられないから3人で川の字で寝てましたね。昼は上の部屋で仕事をして、夜は一緒に寝てみたいな極貧な生活を1年くらいしていました。そこから少し軌道に乗ってきて、人も増えて、オフィスも高田馬場、自由ヶ丘と移って、今は鎌倉に本社があるっていう感じです。
川井 かなりご苦労されてきたんですね。
貝畑 実際に人を増やし始めたのは3年前くらいなんですよ。それまでは役員3人とアルバイトくらいだったんです。Coopyという制作会社は人を増やしていたんですけど、KAYAC本体は、役員のアイデアで好きなようにやりたいというのがあって人を増やさなかったんですけど、3人でやるっていうのもできることは限られてくるなって言うのは目に見えていたんで、途中から人を増やし始めて、今は40人くらいになりました。
川井 かなり急激に増えていますね。「面白法人」というコンセプトはいつぐらいからなんでしょうか?
貝畑 「面白法人」って言う言葉自体は会社を設立するときに決めたんです。会社にはコンセプトが絶対に必要だって思っていて、何か面白いことをやりたいと思っていたので「面白法人」って名前にしました。その他に経営理念があるんですが、これは毎年変えていまいた。今は3年に一度くらいしか変えていませんが、会社も人間と同じように進化しないとおかしいという思いがありますね。経営理念が全社員に浸透している会社はやっぱり強いだろうという思いがあって、毎年ブラッシュアップしています。
川井 なるほど。そうかもしれませんね。
貝畑 もともとあった経営理念は7つなんですが、去年、1つに集約したんですよ。もともとあった7つはブラッシュアップして5つに集約して行動指針みたいな感じで残しました。経営理念そのものは一言のシンプルな言葉に置き換えて、それをベースに会社を作っていこうと思っています。
川井 柳澤さんが、先日に公園で言ってましたが、「経営理念」でグぐると一番上に出てくるんですよね?
貝畑 はい。一位で出てきますね。今は「つくる人を増やす」が経営理念ですね。
川井 起業されてから大分ご苦労されたと思うんですけど、何か事件とかってあったんでしょうか?
貝畑 KAYACでは、「個性は出していこう」と思っていて、受託ではそういうことはできないと思っていましたから、1年目から777プロジェクトっていうのをやっていたんです。7月7日に7つのサービスを同時にリリースするっていうプロジェクトで、受託の仕事をしながら6月をフルで空けておいて、7つ一気に作るっていうことをしていました。1年に7つ作れば7年で49個になるので、結構すごいんじゃないかって思ってました。勿論、7つ全部すごいサービスを作るのは不可能で、大体5つくらいはおふざけ系の面白い感じのコンテンツで、2つは結構真面目でメディアになるようなちゃんとしたビジネス目的のサービスを作ってという風にメリハリをつけていました。
川井 7つ同時はすごいですね。
貝畑 当時は、7つも同時っていうのは画期的でしたね。まあ、今でもあまりないと思いますけどね。「なんだ、それ?」って言って業界の人がみんな注目するんですよね。それで「KAYACって面白いね」っていう認知がされていって、「今年は何をやるのかな」とか「今年もやったね」って言われるようになって、徐々にWeb業界での個性というかブランディングをしていったという感じでしたね。
川井 なるほど。
貝畑 それで、これまで受託で作っていただけだったものが、「KAYAC主導で何か面白いものを作ってください」っていうような仕事が入ってくるようになってきたんです。そうするとレベニューシェアだったりとかリソースをもらって、こちらでサービスを考えて、割合をシェアしましょうとか言うモデルが生まれたりしました。
川井 それが、現在のBM]11のもとになっているんですね。
貝畑 確かにBM11につながっていますね。
川井 1年に77個でしたっけ?
貝畑 そうです。77プロジェクトは別にやっているんですけどね。
川井 別なんですね。
貝畑 77個はあくまでラボのノルマなんです。KAYACって数にこだわる会社で、3とか5とか7とかが好きで、普通、年間で何かやろうとすると100個とかっていう感じだと思うんですが、7が好きなので、77個になったりしますね。11人いたので、7を掛けて77個にしたっていう経緯もありますけどね。
川井 そうはいっても普通の会社って稼動を全部止めて、そこにリソースをつぎ込むってなかなかできないと思うんですけど、大分、思い切ってやられたんですね。
貝畑 そうですね。それが1つのブランディングにつながるっていう確信のもとにやっているという思いがあるので、全く無駄な投資だとは思っていないんですよ。それがもとでKAYACの個性が強調されて、KAYACにはBM11っていうのがあるんだってことになればいいと思うんですね。KAYACは技術力も売りにしているんですが、同時に企画力も売りにしていて、KAYACに頼むと何か面白いものができちゃうっていうのをモデルにしたかったんです。
川井 なかなか大変なことですよね。
貝畑 アイデアは無限にあるので、いくらでも提供しますっていうのをアピールしたいですね。ブレストもただで参加しますし。面白ければ一緒に作らせてくださいっていうスタンスです。ちょうどBM11の方で2ヶ月前くらいに「元気玉」っていうサービスを作ったんです。「元気玉」っていうのは、みんなから元気を集めて相手にぶつけるっていう鳥山明先生の漫画の必殺技なんですけど、BM11にアイデアを依頼できるサイトをなんです。例えば、「こういうサービスを作るんだけど、何かキラーコンテンツを考えて欲しい」というのを依頼されると、BM11のメンバーがアイデアをばーっと書いて、3日以内に返すっていうサービスなんです。アイデアを出す側としてはそれは本当にハードルが高いんですけれど、やっぱりそれをこなすことで、KAYACってすごいね、アイデアが無限にあるんだね、ただで提供しちゃうってすごいよねって認知をされることは間違いないし、それにラボのメンバーのブレスト力もUPするっていうのもいいコラボレーションだと思うんです。この「元気玉」は、KAYACのラボの特徴をよく捉えたサービスだと思いますね。
川井 そのアイデアを生み出す源泉はどのあたりにあるんでしょうか。採用やマネジメント手法に特徴があるんでしょうか?
貝畑 まず1つは、特に役員3人がそうなんですが、KAYACって、「面白いもの」と「新しいもの」に価値を置いているので、同じものを作りたくないっていうのをコンセプトに置いているんですよ。なので受託するにしても何をするにしても、新しいアイデアを無理くりでも出すというか出さないといけない使命感がまずあるんです。でも情報収集にこだわっているとか、そういう仕組みがあるとかではなくて、あくまで直感重視なんです。鎌倉にオフィスを構えているのは、そういう直感重視だからなんです。やっぱり自然に囲まれている方がアイデアが浮かびやすいっていうのは何らかの真理だろうっていうのがあって、鎌倉に引っ越してきて海と山の間で仕事をしているんです。役員が来たくて来たっていうのが一番の理由ですね。
川井 確かに自然がいっぱいですもんね。
貝畑 シリコンバレーなんかでもクリエイティブな企業ってだいたい郊外とかにあるっていうのも何か関係あるんだろうなと思ってやってみたって感じですね。
川井 なるほど。
貝畑 KAYACって言う会社はアイデアを出すっていうことが特徴になっているので、社員教育にもそれがつながっていて、ブレストにもほとんどの社員を参加させるんですよ。技術者にしてもデザイナーにしても、基本的に強制参加させるようにしていますが、アイデアを出す段階で、KAYACの経営理念だったり考え方なんかが伝わっていくんですね。例えば、社員が好き勝手なアイデアを出すんですが、「それは新しくない」とか「それはKAYAC的じゃない」「KAYACの経営理念に反している」みたいなやりとりをしながら、KAYACの経営理念を学んでいくっていうのがあって、全員がいいアイデアを出せるわけじゃないんですけど、そういう場にいてもらうことが教育だったりもしますね。
川井 それはいい社員教育ですね。
貝畑 あとはブレストとの基本ではあるんですけど、アイデアを出す人を否定しないってことを極端にやっています。本当にくだらないアイデアしか出さない社員がいるんですけど、とりあえず「いいね」っていうことにしているんです。そうすると、その社員は喜んでどんどん次のアイデアを出すんですよ。ずーっとくだらないアイデアしか出さないんですけど、それでも続けていると突然、ブレイクすることがあるんです。1人、そういう社員がいたんですが、今はとてもできる男になっています。
川井 マネジメントの勝利ですね。
貝畑 あとは、技術陣には、常に新しい技術を取り入れて開発してほしいって伝えてあるんですよ。普通、会社って使い慣れたものを使ったり、フレームワークみたいな1つのアーキテクトというか流れを作って、それを使いまわすことで効率化していくと思うんですが、KAYACではまったく逆で、常に新しいことにチャレンジしていくということを推奨していて、それが新しい技術の習得だったり技術者の好奇心を満たすことにもつながっていると思います。技術者って常に新しいものを求めていますよね。例えば一度、ECサイトを作って、もう一度ECサイトを作ろうっていったときに、当然、スキルがあがっているから効率的ではあるとは思うんですが、あまり刺激ってないと思うんですよね。少なくとも僕はそうでしたからね。であれば、全然違う言語で作ってみたりとか見たこともないモジュールを組み込んでみたりとかっていうことをやることで、開発効率が下がったり、バグでも出るとは思うんですが、それでプログラマのスキルやモチベーションが上がったりとか、会社としての知見になって次に生かせるってところを重要視しています。
川井 なるほど。開発にも経営理念が生きているんですね。
貝畑 そうです。他の会社では、自分たちでフレームワークを作ったりしていますが、KAYACでは、各プログラマなりデザイナーが自分の方法論でトライしていって、その情報を共有してブラッシュアップするという形をとっています。
川井 なるほど。すると技術的にはありとあらゆるものを試している感じなんですか?
貝畑 社員の興味の赴くままという感じですね。僕はCTOって名乗っているんですけど、はっきりいって社員の方が出来るんですよ。出来る人を採っているんですよ。個人でやっていたけど、本当にすごいプラグラムを書いていたような人たちも集まってきていて、僕の仕事は彼らが自由に開発できる環境を作るのと責任をとることなんです。いつも社員には「バグは個性だ」って言ってるんです。「バクが出るのはしょうがない。それは挑戦した結果なので、バグが出ても構わないので、とにかく新しいことにトライしてほしい」ということを言い続けています。なので、社員は結構好き勝手なことをやっていますね。稀に取り返しのつかないような事態に陥ることもあるんですけど、それもありだってことです。挑戦して成功するか失敗するか分からないけど、それをすること自体がその人の成長につながると思うので、基本的に推奨派ですね。
川井 チャレンジャブルでいいですね。
貝畑 Coopyの方は、受託ですからそれじゃいけないので、Coopyの中でPHPのフレームワークを開発しています。会社の質が違いますからね。KAYACの方が新しいことに挑戦して、Coopyの方は限られた技術を使って効率よくまわしていく。それで得られるものも違うので、社員も相互交流させるんですよ。技術的に開発をガンガンしてSE的なことをやりたい人はCoopyに行かせるし、逆にある程度の技術を身につけて、自社サービスを作りたいっていうならKAYACに引っ張ってきたりしています。社員のスキルとかやりたいこと、そしてその社員の人間的レベルで会社やポジションを変えたりしています。
川井 KAYACでは、今はどんな技術に取り組んでいるんでしょうか?
貝畑 今は、Perl関係が強い子がいるのと、Ruby on Railsなんかもやっていますし、基本的な言語はやっていますね。それを使って新しいライブラリーとかモジュールを作っている有名な子がいるんですが、その子が最近作ったサービスで、みんなの開発したデポジトリを公開するのがあるんですけど、そこに賛同するプログラマが集まってきて、みんな自分の開発したデポジトリを公開しているんです。KAYACのラボで作った面白いツールなんかのソースも公開していますよ。
川井 貝畑さんの業務は、ほとんどマネジメントという感じですか?
貝畑 いえ、開発もしてますよ。開発をしていないとアイデアが出なくなっちゃうんです。
川井 そうでしたか。それは忙しいわけですね。
貝畑 開発者には2通りいると思っているんですよ。右脳派、左脳派っていう言葉で表現した方がいいか分からないんですけど、技術から入っていく人と、作りたいものから入っていく人がいると思うんですよ。僕はアイデア先行型なんですよ。アイデアが先に浮かんで、こういうWebサービスを作ろうってなったときに、それを開発するために必要な技術だけを身につけるっていうスタンスなんですよ。PHPでやるべきなのか、Perlでやるべきなのか、Javaなのかとか、相手が先にあって、それに必要なことだけを学んでやっちゃうんです。技術者が技術を学ぶときには、そっちの方が楽しいんじゃないかって思うんですよね。いちから参考書を読んでいくっていう人もいるんですけど、そのこと自体はアイデア力につながっていかないので、これやってっていえばきちんとできる人間になるんですけど、何かビジネスモデルを考えてっていうとそこまでいかないと思っているんです。うちの社員もアイデア先行型が多くて、作っているものとか、好きなゲームをサポートするツールが思い浮かんで、そのツールを作っちゃったみたいな人が多いんですよね。ブログなんか見ていても、技術のchipsとかを載せているんじゃなくて、作ったものを載せているんですよね。その作る過程で得たノウハウとかを公開しているというパターンが多くて、いわゆる参考書的な人間じゃない印象はありますよね。
川井 「何をつくるか」と「どう作るか」だと思うんですが、「何を作るか」から入っていく人が多いということですね。
貝畑 はい。僕がそうなので、社員もそっちの方が多くなってしまったんだと思います。Coopyの方は参考書で勉強していくタイプの社員が多いと思います。社員にはどっちにしろってことは言ってなくて、適性を僕の方で把握しておいて、マネジメントしています。
川井 なるほど。でもバランスがよさそうですね。
貝畑 そうですね。結構、いいと思います。
川井 通常だと、経営者層は「何を作るか」にウェイトを置いて、現場は「どう作るか」をメインに考えて、対立するっていう構造があると思うんですけど、双方が両方のことを考えられるので、うまく噛み合っている感じですね。
貝畑 そうですね。経営は結果だけを求めがちですからね。ただ、KAYACの役員3人は技術者あがりなので、作ることの大切さというか面白さも知っているんですよね。やっぱり作ることが面白くないと仕事って面白くないですからね。面白い楽しい状態を維持しないと、結局、社員も面白くなくて、仕事がうまくいかなくて、結果的に会社のためにならないと思うんです。反対に言えば、楽しく働いてもらえば会社もうまくいくってことだと思います。

川井 3人の役割が自然と決まってきたというような話をお聞きしたんですが。
貝畑 そうですね。なんとなく決まっていますね。やっぱり柳澤は、経営者としての素質がものすごくあるなと僕は思っています。非常に頭がいいし、責任感が強いので、会社のサービスを隅々まで見ていますね。もう技術者ではないし、一切、開発はしないですが、CEOとしての才能を発揮しているという感じです。僕は自然と技術者のリーダーのポジションになって、技術を追っているわけじゃないんですけど、この技術はいけるとかこのサービスはいけるとかなんとなく知見が備わって、直感的に判断がつくようになっているので、技術者をどう育てるかとか技術者にどういう仕事をさせるかということを考えるポジションになっていますね。KAYACは半分以上が技術者なんで、CTO的なポジションの人を置かないと把握できないということもあって、そうしているんですが、開発もしたいので、時折やっているという状況です。
川井 なるほど。久場さんの方はいかがですか?
貝畑 管理系だったんですが、管理系は向いていないてことがわかって、今は30人くらいなんですが、Coopyを一人で切り盛りしています。キャラクターが特徴的なので、会社の顔みたいな感じで、メディアには「いじられ役」としてよく登場しますね。
川井 自然と傾向が別れていったんですか?
貝畑 自然ですね。僕がほとんど経営に興味がないんです。KAYACっていうブランディングをするときに1つ大きなサービスを作りたいんですよ。「はてな」や「mixi」とかって、はっきりしているじゃないですか。常に作り続けていないと死んじゃう会社なので、作ってはそれを渡してを繰り返しているんですが、僕は何か1つ大きなサービスを作りたくて毎年トライしているんですよ。作りたい人間なんです。柳澤は人間に興味があって、会社も一人の人間として捉えて、それを構成している人間もよくないと法人としてはよくないだろうってことで人を育てたりとか、そういうことに興味がいっていますね。そういう意味で興味の対象がスパッと分かれちゃいましたね。
川井 いい分かれ方ですね。
貝畑 そうですね。あとほとんどお互いに口を出さないですね。相手の力量というかそのキャラクターを信頼しているというか、変な言い方なんですけど、柳澤を認めている自分を信じているという感じなんです。
川井 なるほど。
貝畑 柳澤を信じているというだけだと、彼が何かミスったときに彼のせいにしちゃうんですけど、彼ができるっていう評価をした自分の能力を信じているので、もし彼が失敗しても僕の評価が甘かっただけですからね。そういうことで、お互いにお互いのやることに口を出さないですね。彼が連れてきた人はきっといい人に違いないとか、彼が言ったアイデアは間違いないとか普通にそういう感覚になっているので、ほとんど衝突することがないですね。
川井 いいバランスですね。
貝畑 他の会社で同級生で起業した会社ってほとんど失敗していますよね。会社の方向性というよりは、お金とか個人個人のやりたいこととかでもめていますね。KAYACではそういうのはあまりなくて、柳澤がCAFÉをやりたいって言い出したときも「いいね」って言うだけで、「それってWebじゃないよね」とかそんな風に口をはさんだりはしませんでしたね。僕が「次はこれがくるので、これやろうぜ」って言えば、「いいね」っていう感じになりますね。
川井 なるほど。実は、うちももう1人の役員とは高校の同級生同士で始めたんですよ。
貝畑 高校からですか。長いですね。2人でうまくいっているなんて始めて聞きましたよ。うちは2人だと衝突すると思ったんで、久場を入れて3人にしたんです。そうすると多数決になるじゃないですか。慶應の人で出資してくれるっていう人がいたんですけど、その人から、同級生でやると絶対に失敗するって言われたんです。言われると、「なにくそ」って燃える方なんですよ。それでやってきたら、全然問題なくいっていますね。やっぱり相性がよかったんだなって思います。

今後の方向性は?
川井 今後の目指す方向ややりたいことについて教えていただけますか? まずは個人的なことからお願いします。
貝畑 個人的なところとしては・・・僕は、漫画が好きなんですよ。漫画家になりたいっていうのもあったんですが、なかなかそれは大変なので、個人的には漫画系のビジネスを立ち上げようっていうのは、2006年から考えていて、1つ実験的にサイトを立ち上げているんですが、2008年は漫画雑誌を創刊しようと思っているんです。少年ジャンプなんかに対抗できるとは思っていないんですが、Webを絡めてチャレンジできたらと思っています。2007年の12月に、無料のマンガ誌『コミック・ガンボ』を発行していた株式会社デジマが倒産したんですが、あの試みは面白いなと思っていて、KAYACだったら、こういう漫画雑誌を創るっていうのをやってみたいと思います。
川井 ターゲットはどのくらいの方ですか?
貝畑 ターゲットは漫画が好きな世代ですので、高校生から30代くらいまでですね。少年ジャンプを読むような人たちですよ。とにかく、KAYACならではのものを考えたいと思います。
川井 なるほど。楽しみですね。
貝畑 一般的には「ストーリーさえしっかりしていればいける」って言われているんですけど、僕は、漫画って「画を描く人」と「ストーリーを創る人」と「編集者」がちゃんと揃わないとダメだって思っているんです。画のタッチを見れば、いけるかいけないか分かる感性は持っていると思うんで、そういう画が描ける人と面白いストーリーを創れる人を集めてきて、KAYACで編集をして成長させるっていうモデルを作ってみたいですね。勿論、ハードルは高いと思うんですけど、個人的にはそのプロジェクトを成功させてみたいんです。
川井 目指すのはWeb漫画じゃなくてリアルの世界でってことですか?
貝畑 そうですね。できればリアルでやりたいですね。編集社からは相当、難しいって言われているので、まずはWebからってことになるとは思いますけどね。講談社・集英社・小学館の3社が、とにかく新しい漫画雑誌とかを潰しにかかるらしいんですよ。なので、その3社の攻撃をかいくぐって漫画家を集めたりするのが相当大変みたいなんです。
川井 なるほど。では、KAYACとしての方向性はいかがでしょうか?
貝畑 会社としては、ラボを伸ばしていきたいですね。BM11が、今年、思った以上に機能していて、今、リクルートと組んで、月に1つか2つ何かサービスを立ち上げるということをやっているんですけど、同じような展開を他の大手企業とやってみるというのが面白いかなと思っています。ラボの外注化みたいな感じですね。それを実現するためには、アイデア力や技術力があるっていうアピールをしないといけないので、2007年に77個のサービスを作り上げたっていうのはよかったなって思いますね。あと、「元気玉」でアイデアを無限に出しますよっていうアピールも繋がってくるんじゃないかなって思います。
川井 発想がオープンソース的な発想ですよね。
貝畑 ソースなんかはクライアントに卸している以上は公開できないんですが、アイデアについては完全にオープンソース的ですね。
川井 確かに技術の方は、クライアントとの守秘義務があると難しいですね。
貝畑 技術者は自分の作ったものを公開したいっていう気持ちが強いので、そのあたりのコントロールも僕の仕事ですね。ここまでは公開していいけど、ここからはダメだよみたいなのは結構ありますからね。過去に「動画変換サイト」のソースを自分のブログで公開しちゃってたっていう事件もあったんですよ。
川井 そんなこともあったんですか。
貝畑 それで商売してるんで、公開しちゃまずいっていうことも知らない自然体で入ってくる子もいるんで、叱ったり管理するっていうよりは、そういう子の芽を潰さないようにしてあげるのが大事かなって思っていますね。なんでも縛っちゃうのは面白くないので、自由にさせながらやるっていうのが僕の役割かなって思います。
川井 リクルートとはどの部署と組んでいるんですか?
貝畑 リクルートにもメディアテクノロジーラボ(MTL)っていうラボがあるんですが、そこの担当の方がKAYACをどこかでみつけていただいて、何か一緒に面白いことをしようみたいな話になったんです。ブレストは一緒にするんですけど、開発は全部KAYACがやるっていうスタンスで、非常にくだらないアイデアとかでも、かなりポジティブに進めさせてくれますね。
川井 Web2.0EXPOでもリクルートが面白いサービスをいろいろ展示していましたね。
貝畑 リクルートは他にも何社かラボの外注とかしていて、いろいろやっているんですよ。
川井 そうなんですか。
貝畑 この前、ネット業界で話題になった「超能力ラボ」っていうのがあるんですけど、Web上でスプーンを中継したんですよ。そこでみんが曲がれ、曲がれ」って念じると曲がるんじゃないかみたいなものをやったんです。結構ストリーミングの技術とかスプーンを検知する仕組みとか裏側ではすごい技術を使っているんですけど、表向きには単にスプーンの中継をしているだけで、なんのこっちゃっていうものだったんですが、あれはあれで同時接続数400人とか、ストリーミングサービスとしては、結構話題になって、KAYACって面白いねっていうことにはなりましたね。
川井 確かに話題になっていましたね。
貝畑 ちょうど先週リリースしたもあるんです。これも投稿サイトで「こえ部」っていうサイトです。声を投稿するだけのサイトなんですが、これもKAYACのアイデアから生まれて、リクルートが乗ってきたものです。声優さんが入ってきたりしたら面白いねっていう程度で作ったサイトなんですけど、実際に声優さんが1,000人くらい入ってきていますね。
川井 すごいですね。
貝畑 予想しない形でブレイクしました。声優ってたくさんいるんですが、あまり仕事がないって聞いていたんで、結構面白いんじゃないかとは思っていたんですが、こんなに早くブレイクするとは思っていなかったですね。
川井 これはエンジニアの間でも話題になっていますよ。
貝畑 これは投稿数がすごいんですよ。本当にくだらないんですけど、声優さんがうまいので、どれを聞いても面白いんですよ。
川井 確かに面白いですね。
貝畑 まあ、これは成功例で、うまくいかなかったものもあるんですけどね。こういうラボの外注を請けて、ゆくゆくは産学連携とかで大学の研究室とも繋がっていって、HUB的な役割が果たせるといいなって思っています。今後、アイデアは出したけどKAYACだけではできないものもあると思うので、じゃあ、この会社とこの会社を繋げてみようよって感じのことができたら面白いなっていうのが先のモデルとしてありますね。
川井 私、もともとリクルートなんですよ。
貝畑 そうなんですか。リクルートは大好きです。お金にならないことばかりやっていたり、本当に面白い会社ですよ。「こえ部」にしたって「声優さんの仕事を斡旋できたらリクルートっぽいよね」みたいなことも言っていて、そこまでいくのかなあって感じでしたしね。
川井 でも、ありそうな感じもしますね。
貝畑 あとは、eco系のプロジェクトをやろうとか、KAYACとしてのメディアをつくろうとかも考えています。CAFÉもオープンしたり、Webにこだわらずに展開していこうと思っています。
川井 なるほど、そういう展開なんですね。
貝畑 勿論ベースにネットっていうのはありますよ。リアル展開の中でもWebと連動してっていうのははずさないとは思います。
川井 クロスメディア的な話ですね。

若手エンジニアに向けて
川井 最後に若いエンジニアに向けてアドバイスをいただけますか。
貝畑 さきほどの話にも出てきたんですが、まずは「作りたい」ものを考えて欲しいと思いますね。その上で作りたいものを作るときに自分1人でできるものなのか、他の人の力を借りないとできないものなのか、他の人の力を借りるとしたら、その時に自分はどんな立場でいると一番いいのかっていうことを考えて欲しいと思います。
川井 もう少し具体的に説明いただいてもいいですか。
貝畑 僕は最初、3人でやっている頃は1人でできるものを考えていたんですね。そうすると誰の力もいらないんで、3人だけでアイデアをどんどん出して3人だけで作れるっていう世界だったんですけど、今はサービスの規模もどんどん大きくなってきているので、僕だけじゃどうしようもないんですよ。そうすると当然、他の人の力も借りなければいけないっていったときに、自分のポジションってなんだろうって思うと、ディレクターだったりクリエイターだったり、自分の役割が変わってきたっていうのがあるんですね。なので、自分が技術者として能力が劣ってきたから他の職種に移ろうっていうネガティブな発想じゃなくて、自分の作りたいものが先にあって、それをやるときの自分のポジションってなんだろうっていう風に位置を変えていくっていう方が積極性があるかなって思いますね。アイデアが出なかったらどうしようっていうすごく大変な問題があるんですけど、それは会社も一緒で、KAYACも創りたいものがなくなったら、もう会社をやめようって思っているんで、それは自分へのプレッシャーとみたいな掟として持っていればいいんじゃないですかね。やっぱり「作りたいもの先行型」っていうのがいいと思います。
川井 なるほど。よく分かりました。
貝畑 KAYACでプログラマを採用するときも、単に技術ができる人って採っていないんです。やっぱり創りたいものがあって、KAYACではこういうものができるんじゃないかっていう人しか採っていなんですよ。そういう人って勝手に伸びると思いますね。時には技術を追い求めるときもあるし、時にはデザイナーとかを集めて自分は、ディレクションにまわったりすると思うんですが、「クリエーター」って名乗るのならアイデアが先にあるべきじゃないかって思いますね。
川井 なるほど。面白い発想ですね。
貝畑 正しいか正しくないかは分からないですが、僕はそういう風にしてきましたからね。僕もアイデアが出なくなったらただのおっさんになっちゃうので、そうならないような努力を日頃からしているつもりです。
川井 よくわかりました。他には何かありますか?
貝畑 もう1ついえるとしたら、技術者にとって環境ってとても大事だと思うので、会社選びはしっかりした方がいいと思いますね。特に最初に入った会社には大きな影響を受けますし、楽しく開発をさせてくれる会社をじっくり選ぶのが大切だと思いますね。
川井 確かに、あまり考えもしないで、入社したり転職したりしちゃう人も多いですね。
貝畑 また、そういう会社が増えればいいなとも思いますね。
川井 IT業界って本当に、エンジニアをどこかから調達して、横流しするだけの中身のない会社って多いじゃないですか。そういう構造を壊したくて、私は会社を創ったんですよ。
貝畑 そういう中身のない会社ってどんどんダメになっていますよね。
川井 そう思います。
貝畑 会社の命題として社会貢献っってあるじゃないですか。結構重要なのは「人をつくる」っていうことだと思うんです。結局転職したり、独立していくじゃないですか。その人の人間性がよくないといけないと思うんです。悪い人間を輩出しているのって社会貢献じゃないですよね。素晴らしい人間を育成して、その人がKAYACのマインドを引き継ぎながら、活躍してくれればそれが社会貢献だといえると思うんです。なので人を育てるということに注目していて、人を雇って働かせるだけ働かせて、「はい、さよなら」みたいなのは違うと思いますね。
川井 リクルートはそのあたりもモデルが比較的うまくいっているかもしれませんね。
貝畑 リクルートの人はみんな楽しそうに働いていますよね。
川井 辞めてからさらにリクルート人脈が広がるんですよ。
貝畑 それに辞めた人がみんなリクルートといい関係性を保っていますしね。リクルートはいいモデルだなと思って参考にさせてもらっていますね。
川井 なるほど。OBとしては嬉しい話です。といっているうちに時間になってしまいました。本当に今日はお忙しい中、いろいろ聞かせていただいてありがとうございました。
貝畑 いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。

<プロフィール>
1974年福岡県生まれ 東京育ち
1989年慶應高等学校に進み、慶應義塾大学環境情報学部に入学。その後、慶応義塾大学政策・メディア研究科卒業ディジタルメディア・プロジェクトに所属し研究に従事
1998年に大学時代の同級生と合資会社カヤック設立(2005年に株式会社化)
取締役CTOとして、面白法人カヤックの技術陣をリードしている。

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