インタビュー記事

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第20回 高橋征義 氏(後編)

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<今後の方向性は?>
川井 今後の方向として考えていることってありますでしょうか? 技術者をやりたいのか、ビジネスをしたいのかとか、そういうものってありますでしょうか?
高橋 「特にないです」と言ってしまうと話が終わってしまいますよね(笑) もうちょっとWebに付き合っていこうかなって思っています。Webで仕事を始めて、ずっとWebとつかず離れず来て、インターネットバブルを越えてWeb2.0ブームまできたっていうのがありますからね。
川井 Webの行く末をもうちょっとみたいって感じですかね。どうなっていくかの予想とかありますか?
高橋 Webは変わるものだと思うんですよ。変わるところにどうやって付き合っていくかっていうところが常に必要とされているんじゃないかなって感じますね。だって10年で本当に変わっちゃうので、それを10年前に予測できますかといったら、予想できないですからね。予想は出来ないけどうまくやらなくちゃ残れないわけですよ。残っていくにはどうするかってところですね。そういった意味では非常に刹那的な業界ではあるんだけど、その中でも変わらないものや蓄積されるものがあると思いますね。
川井 高い環境適応能力が必要とされるということなんですかね?
高橋 そんなに毎年毎年ドラスティックに変わることはなくて、少しずつ変わっていって、気付いたら全然違う風になっているというものじゃないですかね。
川井 大きな波をキャッチしながら泳いでいるということですね。
高橋 大きな波が来る来るって言ってて、やっぱりこないとかもよくありますけどね。これは来そうだからコストをかけて備えて、これは来なさそうだから無視しようとかっていう判断になるでしょうね。
川井 いろいろお話をお聞きしていると、ある意味スマートに世の中と付き合ってらっしゃるのかなって感じるんですが。
高橋 そんなことないですよ。色々大変だったんです(笑)
川井 それは日々の仕事の中でですか?
高橋 ええ、そうですね。ベンチャーは本当に大変だって思いはとても強いですね。最初の就職先がベンチャーっていうのは色々と大変なので、結論から言うと私はたまたまラッキーだっただけだと思うんですよ。今、ここにいるのは、本当にラッキーだっただけで、ちょっと間違えると、割りとズタボロの人生があったんじゃないかなってことが割りとリアルに想像できるんですよ。
川井 前田くんもベンチャーだし、2人とも最初はベンチャーなんですね。
前田 そうなんですよ。僕も最初ベンチャーでズタボロにならないためにどうすればいのか悩んでいるんです(笑) 分岐点というか、何がポイントになったんですか?
高橋 それは本当に人それぞれなので、うまくいく人もいかない人もいると思うんですけど、私の場合は手広くやっていたのが良かったですね。
前田 コミュニティの活動とかですか?
高橋 そうですね。それとか、本を読んだりとかもですね。
前田 仕事だけじゃなくて、自分が興味のあることにフラットに目を向けて、目の前の業務だけでなくバランスよくやるということですか?
高橋 そうですね。色々手広くやっていくと、人のコネクションが出来るので、いざっていう時に助けてもらえたりとかチャンスが生まれたりするんです。でも、いざって言うときのためにコネクション作るっていうんじゃ駄目なんですけどね。
川井 そうですよね。コネクションはあくまで結果的に生きるということですよね。
高橋 何かに興味があったときに、色々調べたりとか、試してみたりして、知識を身につけるという風にした結果、初めてその知識が身について、プラスその分野に興味がある人と話が通じたりつながったりできるんだと思うんです。そのジャンルに興味があることが先にあって、たまたま人との関係はおまけで付いてくるっていう状態ですね。
前田 そうすると、自分が好きなものを純粋に楽しむっていうのが基盤なんですかね。
高橋 好きじゃなくても、興味があれば首を突っ込んでみてもいいんじゃないですかね。本当に好きなものがあればいいんですけど、「本当に好きなもの」といわれるとそんなにあるものじゃないですよね。「本当にプログラミング好きですか?」って聞かれると、そうでもないですっていう話にしかならないですからね。(笑)
前田 高橋さんの場合もプログラミングやRubyに興味があったので、首を突っ込んでみて、結果的に今があるということなんですよね。
高橋 まあ、私の場合は本当に時間がかかりすぎてはいますけどね。小学生の頃からプログラミングを始めて、まともにコードが書けるようになったのが就職してからですから、一体どんな無駄をしているんだって感じですよね。Rubyを覚えるってときも、その頃は近道がなかったので、MLをあさったり非常に効率の悪い勉強の仕方をしていたんですよ。
前田 それはWebとかで調べるんですか?
高橋 いや、本ですね。梅田望夫さんのいう「高速道路」もなくて、ぺんぺん草が生えている状態を彷徨って行くしかないですっていう風な感じの世界ですよね。
前田 そう考えると、今の僕らは高橋さんの本なんかを読んで、まさに高速道路を行っているってことですね。
高橋 それはもう、どんどん高速道路に乗った方が勝ちですからね。ただ、マイノリティっていうのは重要で、マイナーなものっていうのは、やっている人が少ないんですよ。やっている人が少ないとすぐ目立ちやすいというか、それなりに身についていますっていう状態でも価値が生まれるんです。例えば今、Javaを勉強しましたとか言っても、相当勉強したくらいではどうってものでもないじゃないですか。なんだけど、Erlang (アーラン)でやっていますっていうと、ちょっと差分プログラムに毛の生えたようなものが作れるようになりましたっていうだけでも、おそらく「はてぶ」で評判になったりするわけですよ。私は基本的にマイナー志向なので、マイノリティ路線では恩恵を受けてきたかなという感じがしますね。わざわざマイノリティーになれっていうのも変なんですけど、人が少なそうで面白そうなものがあればそこに突っ込んでみるのはありだと思います。あとマイナーな世界だと、すぐ人のコネクションできるんですよ。なんせ母数が少ないので「あ、話が通じる。感動!」とか言っているうちに、みんな友達に見えてくるんです(笑)
川井 それは、確かにありますよね。
高橋 ネット黎明期にそういう話はよくあって、~さんの本を読んでいるのは世界で私だけと思っていましたけど、他にも読んでいる人がいたって分かって感動しましたみたいな会話がされていたんですよ。それって日本SFの歴史でも同じような話がありまして、第1回日本SF大会のときに言われた有名な言葉で「皆さん、周りを見渡してください。周りの人はみんなSFファンです」っていうのがあるんです。普通の世界だとほとんどいないSFファンが集まっている素晴らしい世界ですってことなんですけどね。SFとか漫画の世界はマイノリティ志向が強くて、マイナーな作家さんのMLができたりする世界で、その影響を多分に受けているんですけどね。やっぱりそういうところからWebへの思い入れがあって、Webって情報の発信ができて、かつ情報の共有が出来て、共有先に人がいるっていうのはすごい感動ですよね。同好の志がいるって感じですね。
前田 マイノリティ志向とWebってそういうところではマッチした部分があったんでしょうね。
高橋 いやもう、まさにそうですね。初期のインターネットは、それなりのマイノリティ志向の人にとっては楽園みたいな世界でしたね。歴史上そういう世界はなかったところに初めてマイノリティのコミュニティできましたって感じですからね。
川井 なるほど。
高橋 そういう場を作れるインフラがインターネットだったってことで、インターネットそのものに対する興味がそんなに強いわけじゃなくて、その中にのっているコンテンツが好きでしたっていうのがあるかもしれないですね。そういう意味ではそこまで濃い繋がりっていうのは、今はあんまり眼中にない気がするので変化しているのかもしれませんが、初期の頃の衝撃は大きかったですね。
川井 いくら産業革命以来の大革命といっても、当然、次第に慣れて自然になっていきますからね。
高橋 海外と繋がれるようになったのも大きな衝撃でしたね。
川井 やっぱり、距離という物理的な概念を克服した点が大きかったんでしょうね。そう言えば前回のセミナーでもそうだったんですが、高橋さんの口から技術的な話があんまり出てこないんで、意外な感じで皆さんこのインタビューを読むかもしれませんね。
前田 インターネットとか、Rubyとかにどっぷりってことではないんですね。
高橋 そうですね。Rubyが目的ではないですね。
川井 その辺が面白いですよね。
高橋 Rubyについては面白いというか、やっぱり言語を作るのはすごいなっていうのがありますね。言語って作れるんだって、とても衝撃だったんですよ。 for文に意味がある、for文を作った理由があるというのが凄かったですね。たまたまパーサー(parser)が作りやすかったからっていうのももちろんあるんですけどね(笑)。
川井 このあたりもさきほどお話していたマイノリティの話と同じ軸なんですか? 人が少ないところに面白そうだから飛び込んでいったみたいな。
高橋 でもその頃は、Perlの濃い人っていうのはあまりいなくて、マイノリティがほとんどですよね。言語について話す場なんて全然なくて、例外的にあったのが、RubyのMLと「Javaブリューワーズ」ですね。あそこは初期は割りと少なかったですね。Ruby自体の発想の面白さも勿論あるとは思いますけどね。でもちゃんとそれを分かっていてRubyをやったわけじゃなくて、たまたまRubyをやって、他の言語もRubyをてこに調べてやっとRubyの面白さが分かるようになったんですよ。結果的にはRubyは面白いし自分に合っているってことで良かったと思いますね。今でも覚えてるのが「たのしいRuby」を書くときに、「Rubyはプログラミングを楽しくするための言語です」って書いたんですよ。なんですけど、私が作ったわけではないので、こんなこと書いていいのかしらんって実はすごく悩んだんです。でもそこはそう書かないと駄目なんですよ。それで、そう書いたときに個人的には吹っ切れたものがありますね。日本でRubyについて熱く語るというのは難しいことなんです。どうみても、まつもとさんがいるのになんで?みたいな話になるじゃないですか。もちろん、「日本Rubyの会」を代表するのもそうで、まつもとさんがいるのに、なんでお前が出てくるのってなるわけですよ。だから、そこを引き受けるのは割と大変で何か吹っ切れるものが必要なんですよ。普通の人はそこまで吹っ切らないですよね。実力があればある人ほど遠慮するか忙しくて出来ないかそれかそもそも興味がないかどれかだと思うんですよ。Rubyのコードをハックしている方が面白いので、Rubyの本を書いたりとか、本を書いてまるでRubyを自分で作りましたみたいに解説を書いたりとか、あるいは「日本Rubyの会」の会長をして、Rubyの世界で一番偉い人ですみたいな振りをするだとかいうことに普通の人はあまり興味を持たないんですよ。
川井 「日本Rubyの会」の代表になったきっかけってどんなことだったんですか?
高橋 誰もやらなかったので、しびれを切らしたっていう感じですね(笑)。まあ、イベントが嫌いではなかったですしね。
川井 最終的には高橋さんが手を挙げたんですよね?
高橋 ええ。別に誰に作ってくれって言われたわけではないですからね。
川井 やってみてどうですか?
高橋 あんまり真面目に出来てないので、すみませんみたいな感じなんですけどね。
川井 今、「日本Rubyの会」での高橋さんの役割ってどんなことですか?
高橋 なんでしょうね(笑)「日本Rubyの会」から来ましたっていう顔をするくらいですかね。窓口というか、顔であることって重要だと思うんですよ、誰だか分らない謎のメールアドレスがあるのとは違うと思うんですよ。
川井 そうですね。威厳があるというか、MLに高橋さんの名前で流れで来るメールとか、なんか期待感がありますよ。あの「高橋征義です」って文句で始まるやつです。
高橋 わたしは漢字でフルネームを名乗るという変わった人なんですよ。
川井 分かりやすいし、いいと思いますよ。
高橋 単に「高橋」って苗字が多いからだけなんですけどね。まあ、誰かみたいにひらがなで展開するつもりはないですよ(笑)
川井 この世界では多いですもんね。ということは実務的に何かをやっているっていうよりも、イベントのときに前に出て喋るとか、そういう担当ってことですか?
高橋 実務は、きっちりやれる笹田さんや角谷さんにお任せしてしまっていますが、私はあんまり実務に向いていないので、実務よりも人がやらない変なことをやる係なんです(笑)
川井 やっぱりマイノリティなんですね。(笑)
高橋 「やる」ってやっぱりみんななかなか言わないんですよ。言っちゃうと大変だし、実際大変ですからね。でも、言い出す人がいないと始まらないのも事実なんですよね。
川井 この前、そろそろ会長も変わらなければいけないかなって話をしてらっしゃったと思うんですけど、それは本気でそんな風に思っているんですか?
高橋 思ってはいますけどね。
川井 でも手を挙げる人がいないと。
高橋 まあ、いないですよ。別に「日本Rubyの会」がずっと続けなければいけないってことはないんですよ。そういう使命感は実はあんまり強くなくて、継ぐ人がいなかったら潰したらいいんじゃないかって思うんです。簡単に辞めますって潰しちゃうことはもう出来ないことは分かっているんで、そういうことはないと思いますけどね。「日本Rubyの会」が「日本Rubyの会」を続けること自体を目的とした会になったらもう終わりだって思っているんです。
前田 今は、「日本Rubyの会」があることの意味ってどんなところなんでしょう?。
高橋 やっぱり「るびま」があること自体が重要ですね。でも「るびま」は「日本のRubyの会」というよりも笹田さんが一生懸命やっているみたいなところもあるし、今後は笹田さんの負担も減らさざるをえないという話もあるんですよ。それを含めて、うまく回っていないですね。僕は「るびま」では基本的に巻頭言を書く係なんですよね。
川井 文章を書くのがお好きだったらいいんじゃないですか。
高橋 いや、本当に大変で大変で、締め切りとか遅れて本当にごめんなさいっていう感じなんですよ。あれって、面白いんですかね?
川井 面白いですよ。高橋さんの人柄も伝わってくるし、みんなも楽しみにしていると思います。
高橋 「プログラミング言語のWeb雑誌」の「巻頭言」にしてはっておかしくないですかね? なんか常軌を逸している感じがしているんですけどね。
川井 そんなことないんじゃないですか。期待している人にとっては、あまり関係ないと思いますよ。
高橋 そうですね。期待している人にはこれほど面白いものはないだろうって思ってはいますね。
川井 そう思います。
高橋 もう1つ重要なのが「Ruby会議」ですね。そもそもRubyの会自体が、基本的には会がイベントを主催するっていうのではなくて、イベントのように人が集まる場とか、勉強会ができる場みたいなものを提供するだけで、「日本Rubyの会」は何もしないし、意思を持たないというのが理想だと思っていたんです。でも世の中的にはやっぱりそうじゃないみたいで、場を作っただけだと、みんななんとかしてくれないんですよ。でも「日本Rubyの会」は地方も含めて多くの中でもうまく行っている方だと思いますね。
川井 確かにそうですね。最首さんのところ(Rubyビジネスコモンズ)は異常に盛り上がってますね。
高橋 あれはどうなんですかね。あんまりRubyの会に出てきてくれないんですよね。たまに面白いメールをMLに投げてくれたりすればいいんですけどね。今度、会うので話しておきます。
川井 Ruby会議には、今年は、協賛させていただきたいと思っていますが、あまり出せないと思いますが、よろしいですかね。
高橋 あんまりスポンサーの方に、なにかメリットがあるわけじゃないので、出したいですって言ってくれる方に出したい金額を出して頂ければいいんです。今年も「多様性」っていうのがテーマなんですが、いろんなところでどんな人が、どういう形でRubyに関わっているのか、Rubyに興味があるのか、Rubyを使っているのかっていうようなな話が聞きたいところなんですよ。そもそも「日本Rubyの会」のイベントにお金を払ってまで参加したいっていう人がいったい何を考えているのかっていう話はすごい重要で、それは何かしらの形で一般参加者とみんなでシェアしたいところではあると思うんですよ。
川井 なるほど、それは生の情報ですもんね。

なぜコミッターにならないのか?
川井 一つ聞きたかったことを思い出しました。高橋さんって、Rubyのコミッターではないですよね、なんでなんですか?
高橋 いや開発していないですからね。だって普通コミッターにならないですよ。
川井 なんか理由はあるんですか?高橋さんの場合、なろうと思えばなれるわけですよね。
高橋 いやなれないですよ。ちゃんとコード書かなくちゃ駄目なんじゃないですか? 私から見た開発コミュニティっていうのは、純粋に実力主義というか、実力と興味の世界なんですよ。興味がある人が、使えるパッチをボンボン投げていると、そのうちまわりがいい加減に痺れを切らして、自分でコミットしなさいっていう感じで、コミット権をくれるという非常にいい循環が一般的にありまして、Rubyは基本的にそういう循環に支配されていると思いますね。
川井 高橋さん自身は、パッチは投げないんですか?
高橋 そんなちゃんとしたパッチは作れないですよ、標準ライブラリに入れられるようなすごいライブラリは作ってないんですよ。
川井 あえて投げないんじゃなくてですか?
高橋 違いますね。
川井 印象的には高橋さんはコミッターって感じに見えますけどね。
高橋 いえいえ。普通にたくさんその辺にいるRubyistの一人なので。
川井 ちょっと信じられない話ですね。それは忙しいからあえてやらないっていうことではないんですか?
高橋 いえいえ、暇でも出来ないと思いますよ。それにパッチワークの話よりも、仕事の話をしている方がまだ好きですね。
川井 興味は、どっちかっていうとそっちじゃないっていうことですね。
高橋 とていうか、実力が伴ってないってことかもしれませんけどね。コミッターのスキルって、Rubyのスキルとは違うんですよ。ライブラリのコミッターはまた別ですけど、Rubyのコアなコミッターは基本的にCのスキルの話から始まって、Cの言語処理を作るのに必要なスキルがあるかどうかで、ポータビリティがあるコードが書けるかどうか、とかそういう風なところをちゃんと気にしている人が書けますよっていうことなんじゃないですかね。ただ コミッターはコミッターで忙しいんですけどね。暇があればコミットしなさいって言われますしね。
川井 なるほど。有志が集まって何かをやるって難しいですよね。日々の生活でのいろいろ制約があるじゃないですか。それで食えるわけじゃあないですからね。
高橋 まあ、どこまで深入りするかってことですけどね。笹田さんくらいまで深入りしてしまうといろいろ大変なんですけどね。そういうのは私にはできませんね。
前田 僕はプログラミング初心者で技術を覚えなくちゃってことで結構ひっ迫しちゃっていて、プライベートを削っちゃっている状況なんですけど、そういう状況ってどう思われますか?
高橋 何が好きかですよね。あんまり周囲に惑わされないようにって言いたいところなんですが、そうすると何もできない気もするので、たまには振り回されてみるのもいいんじゃないですかねっていう話しもあるんですよね。個人的にはあんまりポジティブ思考って好きではなくて、わりとネガティブな人間なんですよ。多分、一芸に秀でた人っていうのはそれを中心とした話になると思うんですけど、私はあんまりそういう感じではないし、それは目指してなるものじゃないし、結局は無理だったっていうこともあると思うんですよ。その辺は狙いすぎてもどうかなって思うんです。ただ一つ矛盾したことを言うと、流行っているところとか、人がたくさんいるところに行くのは良いことで、情報はやっぱり集まるんですよね。たとえば今であれば、Ajaxとかが流行っていて、だからってAjaxをやりたいとかいうと、「もっと他に勉強すべきことがあるだろう」とか言われてしまうかもしれないんですけど、盛り上がっているところはやっぱりみんな興味があるし、それは初心者でもそうだと思うんですよ。そこに突っ込んでみても、分からないなりに表面的な知識だけしか入らないということはあると思うんだけど、そこから深く掘り下げてっていうことも出来なくはないんで、そういうところに行くのはいいと思うんですよ。そういうのがある一方で、人が少ないところに行くと、すぐ詳しい人になれますっていうかマイナー同士の楽しみはありますっていうところもあります。どっちでもいいんじゃないのっていう感じですかね。
前田 多いか少ないところに行くと。両方メリットがあるって言うことですよね。
高橋 そうですね。だから、好きなところに行ったらいいんじゃないのっていう感じですね。
前田 動かないのが一番、よくないってことですかね。
高橋 とはいえ、ある程度腰を据えましょうっていうのもあると思うんですよ。時間をかけて分かるものってあると思うんで、すぐ分かる人もいると思うんだけど、なかなかそうじゃない人もいますよね。そういう人に対してあれもこれもそれもって言っちゃうと流石に限度があるだろうっていうのと、限られたものの中で最大限に吸収してから広げるっていう方法も有効だと思うんです。私は札幌出身なので、やっぱり東京に比べれば情報は少ないんですよ。情報が少ないところではある程度情報自体がフィルタリングされているので、自分でつまみ食いをする必要がないんです。そういう状況は私にとってはすごく楽だったし、惑わされなくて済んだんです。情報が入ってこないところで、少ない情報を最大限吸収して自分のコアな部分が出来て、そこから情報の多いところに行ったときにはそれなりに分かるようになっていましたっていう感じなんです。
川井 自動フィルタリングの意味があるんですね。
高橋 それは地方都市のメリットですね。まあ、地方都市って言っても札幌はそれなりにでかいので、ある程度情報も入ってくるんですけどね。それが自分の好きなジャンルじゃないと全然入ってこなかったりするんだけど、いろんなジャンルがあるので、ちゃんと入ってくるジャンルだとコアだったりとかっていうのはありますね。でもだからって、そこでがんばるのはすごく大変で、Ruby@札幌の人たちは大変そうですね。地方は地方は大変ですよ。

高橋メソッドについて
川井 最近、高橋メソッドをを使わせてもらっているんですけど、意外と年配の方からうけるんですよね。そのあとに本を読んだんですよ。ああいうのを狙って作ったんですか?それとも結果的にああなっちゃったんですか?
高橋 面白いことやりましょうっていうのってあるじゃないですか。特に大学のサークルはわりとそういうところがありますよね。ナウシカってご存知ですか?
前田 「風の谷のナウシカ」ですよね。
高橋 北大って割と政治色が薄い大学で、普通の大学生が立て看とかを書いているような学校なんですけど、新歓のサークルで受験生歓迎用に立て看を作りましょうって話になったときに、ナウシカの絵で看板を作って、横に「なぜ争うの?」って書いたりとかしたんですよ(笑)受験しに来た人にそれはないだろうって感じですよね。
川井 受験生は争っていますもんね(笑)
高橋 まあ、そういうことを楽しんでいるような文化だったんですよ。あとオープンソース系の人たちも、こう面白いことやりましょうっていうそんな変なカルチャーがあったりするわけですよ。そういうところで喋んなきゃってときに、変なこととか面白いこととかをしても、許容してくれるというか逆に煽るところが多分あって、そういう人たちの前だったからああいうのが出来たのかなって思います。
川井 あれは面白いですよね。時間の調整が慣れるまで難しくて、200枚準備して1時間喋ろうと思っていたんですけど、30分しか喋れなかったですよ。
高橋 そんなものだと思いますよ。
川井 ですよね。なので1時間喋ろうとすると、400枚くらいいるんだと思いましたね。今度、会社の新しい期の方針の説明も、高橋メソッドでやろうと思っているんです。
高橋 準備が大変ですよ。
川井 まあ、パワポならそんなに重くないし。
高橋 パワポだと、300枚目のやつを100枚目にあとに入れましょうみたいなのが大変なんですよ。
川井 なるほど、確かにそうですね。
高橋 あれは、パワポのインターフェイスが悪いとは思うんですが、そもそもそういう使い方をする方が悪いのかもしれないですね(笑)
川井 そういうのを想定していないでしょうからね(笑)
高橋 あれはたまたま出来ましたっていう感じですね。でも、あれは準備をすればするほど枚数が増えるんですよね。
前田 作っておけば、喋ることが頭に入ってなくてもいいんですよね。
川井 そうそう、作っちゃえば、あとはアドリブだけ。でも事前に自分でやってみないと分からないんですよね。喋りすぎると、喋ったばかりのことが次のページで出てきたりして慌てたりもしますよね。
前田 この前、無茶振りで、他人が作ったやつでプレゼンしろって言われたことがあっったんです。
高橋 それはしんどいですね。
前田 ストーリーが頭に入ってないので、必死に読み込んでやってみましたけど、結果は惨敗でした。
高橋 他人のは難しいと思いますよ(笑)

エンジニアの幸せって
高橋 「幸せなエンジニア」っていう話がありましたが、エンジニアであることだけに幸せを求めない方が結果的に幸せなエンジニアになれる気がします。本当に幸せなエンジニアになれるのは少数だと思うんですよ。なれる人はよっぽどラッキーだと思うんですよ。なので、あまりその技術にフォーカスしすぎてしまうとか、いい意味で尊敬できなくなるとか、駄目そうだと思ったときに無理にしがみつくと、より駄目になるので、駄目だったら駄目でいいんじゃないっていうくらいでいいと思うんです。それだけが幸せじゃないしねって風に吹っ切れた方が幸せなんじゃないですかね。
前田 こだわり過ぎないってことですかね。
高橋 こだわるのも重要だったりもしますので、なんとも言えないんですけどね。
川井 そういう風に言っているのは、エンジニアって他の職種に比べて辛そうに見えるんですね。そんな風に感じちゃっているところがあるんですよ。エンジニアだけがハッピーになればいいっていうのでもないんですけど、少なくとも他の仕事と比べても引けをとらないよというものにしたいのはありますよね。まあ、若い世代は自社サービスの開発をできるケースが増えたりというのもあるので、最近の事情は違ってきているのかもしれないですけどね。
高橋 「エンジニア」っていっちゃうと、圧倒的に業務系という印象になっちゃうんですけど、別にそれだけじゃあないしって思いますね。たたき上げWeb系できた我々からいうと、そういう世界があまりなかったんですよね。「Webってなんだろう」「プログラミングってなんでしょうね」っていう人がCGIを書いていて、それが普通で、上流も下流もないんですよ。代理店もコンピュータなんか知らないから「言語ってなんですか、好きにやって動けばいいですよ」っていう感じでしたね。だから、「下流で大変でした、早く上流工程になりたいです」っていうのは、なかったんですよね。感覚としてそういう世界にいなかったんです。なので、そこだけフォーカスされるのは嫌だなっていうのがありますね。昔はJavaをやっていないとまずいんじゃないかとか、SEとか上流とかがいいんじゃないのかなとかいうのはあったんですが、でもそれも気のせいでしたね。
前田 この世界で食っていこうとすると、やっぱりJavaはどこに行っても使われているし、あとは設計とかするようになったらUMLとかを勉強した方がいいんじゃないかっていうのが先に立っちゃうんですよ。
高橋 当時、90年代の終わり頃から2000年の頭にかけてっていうのは、Perlも尖っていなくて、PHPも出てきたんだけどいまいちで、Rubyってなんですかみたいな状況で、その頃にWebとかプログラミングで食っていくならJavaですよねっていう感じが大きかったわけですよ。でも実際にはそうでもなかったんですよ。
前田 「そうでもなかった」っていうのはどういうことなんですか?
高橋 まあ、RubyでもPHPでも食えるわけですよ。あっという間にRubyが流行ってしまったり、そもそもPHPでも困っていないですからね。
川井 やっぱり変わっていくんでしょうね。なんでもそうだと思いますよ。
高橋 世の中に出回っている情報とかは、あまり信用できないですね。みんなが言っているからといてそうではないですよ。一部の人たちの声がでかいだけですからね。もちろん、儲かるかどうかっていうのは別の話で、Javaの方が儲かるかもっていうのは正直ありますけどね。まあ、メディアとかWebの情報にあまりに振り回されるのもいかがなものかなって思いますよね。
前田 これまでに武勇伝に登場したハッカーの方って、これだっていう確固たるものがある方が多かったと思うんですけど、高橋さんの場合って、ちょっと違っていて、物事の「一長一短」っていう本質をすごく理解しているっていう感じですよね。
高橋 私の世代だと「ポストモダン主義」の全盛時代なんですよ。よい意味での相対主義が流行っていて、SFの人ってすごく相対主義が大好きで物事を両面から見たがるんですよ。そういう影響は相当自分の中にありますね。
川井 なるほど。でも高橋さんの場合、客観的に両面から見ているだけでなく、自分自身がどういう道に進んでも幸せになれるんじゃないかなっていう気がしますね。
高橋 いや、それは本当にラッキーだっただけですから。
川井 でも、他の道に行っても、たまたまラッキーだったっておっしゃってるような気がしますよ。
高橋 いやいや、難しいと思いますよ。
川井 自分の人生に対して懐がすごく広い感じがしますね。
前田 そう感じますね。
高橋 もしRubyを知らなかったら、プログラミングのことも良く分からず、一生の仕事としてプログラミングが出来たかどうかも分からないと思いますね。プログラム辞めちゃったってことも普通にあったかもと思うんですよ。
川井 僕の感覚では、プログラムをやめても、幸せになったんじゃないかなって思いますけどね。
高橋 いや、何もスキルがなくて20代の後半で、それなりに景気も良くなくて、再就職するのは大変だと思いますよ。
川井 さっき言ったようにネガティブシンキングなのでそう思っていますが、やっぱり上手くいっていると思いますよ。私は相当なポジティブシンキングですからね(笑)
高橋 そういう意味では、今がそれなりに成功してきているっていうのがあるんですよ。
川井 まあ、確かに他の世界で、そのレベルまでいけるかどうかっていうのはありますよね。
高橋 今よりも上は、それは難しすぎるだろうって思います。それなりに名前が出たり、本を出せたり、本当に英語が苦手で日常会話がおぼつかないのに、海外でプレゼンができるなんて、普通ないじゃないですか。
川井 それは、おっしゃる通りですね。なかなかないですよね。
高橋 本当にラッキーだったと思っているんですよ。
前田 でも、タイミング、タイミングで自分から行動を起こしている結果ですよね。
川井 そうそう、自分で手を挙げていますからね。
高橋 タイミングが違って滑ったこともいっぱいあるんですよ。成功したものだけ繋げていれば、毎回成功しているようにしか見えないですけど、それは全然気のせいでですね。まあ、手を挙げるタイミングもあるとは、思いますけどね。何度も手を挙げていたらいろいろしんどいですしね。私はあまり打たれ強くないので、打たれないように気を配っているんです。何でもいいからとにかくブログを書けとか、探せとかっていうのは私にとっては駄目で、そんなことが出来たら苦労しませんし、そこまで人格改造したいとは思ってないんです。
川井 なるほど、私と高橋さんとでは、正反対ですね。打たれてもなんともないですもん(笑)
高橋 そうなんですか。基本的に根が小心者なので、いろいろ策を練って、十分に準備ができてから、そろそろいいかしらって考えているという感じなんですよ。RubyのMLに入るのだって、しばらくして、そろそろ大丈夫かなって感じになってからですからね。
前田 用意周到派なんですね。
高橋 用意周到っていうか、石橋を叩いて壊すんです。それで壊れなかったら渡ろうかなって(笑)
川井 なるほど(笑)そんなこんなでいつの間にか2時間半になってしまいました。高橋さん、今夜は楽しいお話をいろいろお聞かせいただきありがとうございました。
高橋 こちらこそ、ありがとうございました。

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